今さら聞けない法人保険!医療法人で生命保険を活用するメリットと節税効果

 「法人で生命保険を活用した損金算入(節税)は今後、困難となる!?」という話題はすでにご周知のとおり、令和元年6月度の定額保険及び第三分野の保険に係る保険料の取り扱いに関する法人税基本通達で大幅な改正がなされました。

2021年現在、医療法人で損金算入(節税)を行いながら加入できる有効な法人保険はないのか!?

結論を申しますと、令和元年6月の改正(損金算入での新ルール)に影響を受けない法人保険や、新ルールに乗っ取った範囲内で全額損金算入を行える法人保険で節税を行うことはまだ十分可能です!

では、どのように国税庁から通達があったのかおさらいと、また医療法人での生命保険加入メリットと注意点をみていきましょう。

 今さら聞けない法人保険の改正内容と税務上の取り扱い

 「医療法人で生命保険に加入すれば節税ができてお得ですよ!!」

「新しい節税保険が出ました!!凄くお得ですので一度ご検討下さい!!」

生命保険会社の担当者が法人保険を勧める際に挙って使うセールストークです。

これまで幾度となく、法人保険での損金算入(経費計上=節税)と資産算入については国税庁が適正化(個別通達)を図ってきました。

しかし、その度に生命保険業界は個別通達の規制に該当しないように新しく生命保険商品を作り替え、またそこから国税庁が個別通達で規制をかけるという「イタチごっこの様相」を長期間呈してきたわけですが・・・

令和元年6月28日、ついに国税庁の堪忍袋の緒を切らし根本的な適正化に乗り出したわけです。

 

改正以前の法人保険はいったい何がお得だったのか!?

 令和元年6月28日以前の法人保険の図式を解り易く簡略化すると、法人保険の解約返戻金+累計節税額(損金算入メリット)が支払い保険料総額を上回ることがメリットの1つでした。

令和元年6月の通達で大きなポイントは、従来の保険商品毎に資産算入/損金算入(経費=節税効果)の割合を決める個別通達を廃止、法人保険の解約返戻金の返戻率に応じて資産算入/損金算入(経費=節税効果)の割合を決定することで、国税庁は根本解決を図る大鉈を振り下ろします。

国税庁は根本的な解決手段として、個別に通達するのではなく解約返戻金にフォーカスを当て・・・

解約返戻金の返戻率(%)が高い=損金算入率(経費=節税)が低くなる。

解約返戻金の返戻率(%)が低い=損金算入率(経費=節税)が高くなる。

法人税の従来の図式が成り立たなくなる根本解決を図ったのです。

令和元年6月の改正通達に関して多く寄せられた質問、それに対する国税庁の回答がQA形式で載っていますので参考にしてください。

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/teikihoken_FAQ/pdf/03.pdf

法人保険は節税(損金算入)が出来なくなると意味がない!?法人保険のメリット・デメリットとは?

医療法人で節税目的(メリット)以外で生命保険に加入する目的(メリット)とは・・・

 1.賠償リスク対策

 まずは民間の賠償責任保険をご検討いただくのではなく、医師会・歯科医師会での賠償責任保険(団体割引きあり)をご検討下さい。

2.経営者に万が一のことがあった場合の事業保障対策

 

まずは民間の事業保障保険をご検討いただくのではなく、医師会・歯科医師会・保険医協会などでの休業(所得)補償保険・死亡保障(共に団体割引きあり)をご検討下さい。

【関連記事】

医師・歯科医師に民間の医療保険は必要なのか?休業補償の考え方も解説!

 3.災害などの損害対策

 火災保険

火災による法人の被害で記憶に新しいのが、平成29年(2017年)に発生した大手事務用品通販企業の倉庫で起きた大規模火災事故です。

 損害総額は最大で約121億円、ところがこれに対して、損害(火災・運送保険など)保険金の支払額は約25億円だったということで、約101億円を特別損失として計上すると発表しました。

火災保険の設計ではカバーするべき資産(建物・設備・医療機器など)の把握が必要となります。

また火災保険がカバーしてくれる範囲は火災だけではありません。

以下のように、地震以外の自然災害や偶発的な事故、盗難なども広くカバーしてくれます。

  •  火災(ただし、地震を原因とする火災を除く)
  • 落雷
  • 風災、雹(ひょう)災、雪災による被害
  • 盗難
  • 騒擾(そうじょう)騒ぎに乗じて破壊活動が行われた場合など
  • 爆発、破裂(コンロの爆発など)
  • 物体の落下、飛来、衝突(車両にぶつけられた場合など)
  • 水災(大雨、洪水など)
  • 水漏れ(漏水などを原因とする被害)
  • 盗難
  • 電気(機械)事故による被害
  • その他偶発な事故による被害
 地震保険

地震による被害は火災保険ではカバーしてくれません。また地震が原因による火災は火災保険ではカバーされませんので注意しましょう。 

4.従業員の福利厚生

 「(新規)人材確保」「スタッフ定着」「より良い職場づくり」などの様々な側面を持つ福利厚生。

本記事では3つの法人保険をご紹介致します。

①従業員の退職金制度を目的とした「養老保険」、② 従業員の医療費をサポートする「医療保険」と ③「がん保険(解約返戻金がないタイプ)」について解説致します。

 福利厚生を生命保険で整えることの意味とは!?

退職金制度の構築を行いスタッフさんの為に将来の準備を法人がしてあげる。また、医療費をサポートすることは、従業員の健康管理に役立ち働きやすい職場環境を整えることに繋がります。

 そのためには資金が必要となりますが、その資金を投資でまかなうことは個人ではいざ知らず、法人(会社)としては気軽に導入できるものではありません。

とはいえ、法人の預金・現金で補う場合には、税引き後(法人税などを支払った後)の利益から積み立てざるを得ません。

法人保険を上手に活用することは、福利厚生において必要な資金を準備できる効果的・効率的な方法となるのです。

従業員の退職金準備と万が一の死亡保障を同時に構築する養老保険

 被保険者(役員・従業員)が死亡した場合は死亡保険金が支払われ、無事に被保険者(役員・従業員)が満期を迎えれば「満期保険金」が支払い保険料累計の90~100%程度の資金を受け取ることができます。

※ 「満期保険金」はある程度の長期間加入していれば90%以上となり、短期解約の場合は元本割れするリスクが御座います。

 

生命保険で保障構築と投資(資産運用)を同時に行う方法とは!?でも記載したとおり、養老保険でも予定利率(運用利回り)が低下している傾向にあることから、「資金を増やしたい希望」+「長期間加入期間が取れる」場合は多少のリスクはありますが、外貨建てや変額保険を選ぶ方法も御座います。

そういったことからも、これまで以上に商品をしっかりと選ぶことが重要となってくるのです。

養老保険は解釈上では死亡保険金受取人と満期金受取人を別々に設定することが可能です。

④の加入方法は、通称「逆ハーフタックスプラン」を言われ、保険料を全額損金に算入できると言われており、「節税」目的で過去に非常に人気がありました。

ただ、税法上の取り扱いが非常にグレーとなり将来的に全額損金できなくなる、また否決されるリスクもありお勧めできませんし、実際に多くの保険会社は取り扱いをやめているのが現状です。

医療法人で養老保険の加入を検討するのであれば、税法上で問題の無い「福利厚生プラン」を選択されることをお勧め致します。

「福利厚生プラン」のメリット

  1.  保険料の1/2を損金算入できる。(福利厚生のため半損)
  2. 従業員に万が一の際はその家族が死亡保険金を受け取ることができる。
  3. もしもの際は解約して資金を準備することもできる。
  4. 契約者貸し付けも可能。

 「福利厚生プラン」のシミュレーション

シミュレーション条件

従業員の年齢:35歳  死亡保険金:500万円  被保険者:従業員

死亡保険金受取人:従業員の家族  満期保険金受取人:医療法人(会社)

保険料:199,410円(年間)  法人税:30%(仮定)

解約返戻金(返戻率)は年々上がっていき、最終的に満期金に替わります。

医療法人の節税効果は!?

年間20万円(199,410円)の保険料を医療法人で支払った場合、その1/2の10万円を損金算入することが可能となります。

法人税率28.00%の場合では年間30,000円の節税が可能となり、25年間では75万円の節税が可能となります。

 

養老保険を使って従業員の退職金を積み立てる場合では、現金・預金で積み立てた場合よりも約75万円の資金が法人に残り効果的といえます。

また、従業員が途中で退職する場合でも個別で退職者の養老保険だけ解約して退職金を捻出することが可能となります。

 5.事業継承相続対策

平成18年度の医療法改正から「持ち分ありの医療法人」が新設できなくなり、「持ち分なしの医療法人」のみが新設できるようになりました。

持ち分ありの医療法人(旧医療法人)

特に「持ち分ありの医療法人」では「事業継承や相続対策」は中長期にわたっての準備が必要になります。

事業継承では、現理事長への退職金の支払い、現理事長から後継者への自社株の移転に伴う納税など、さまざまな場面で多額の資金が必要となることが見込まれます。

その対策での1つとして法人での生命保険活用は有効となり得ます。

・生命保険金等の非課税枠を活用(500万円×法定相続人の人数

・生命保険を活用した医療法人からの退職慰労金受け取りによる自社株の引き下げ。

・相続税を納税目的の定期保険活用。当初法人契約⇒個人買取り⇒受取人指定。

などの医療法人での生命保険活用方法が御座います。

現理事長から後継者へ財産移転するに当たっては、多額の税金が発生する場合がある、またその他の相続争いを避けることは事業継承を行うにあたり不可欠です。

6.役員や社員の退職慰労金の準備

法人保険を利用した役員(理事長・理事)を準備する場合には、検討する法人保険の種類・内容をしっかりと選ぶことが重要となります。

退職金準備に活用される貯蓄効果の高い法人保険は「逓増定期保険」と「長期平準定期保険」の2種類が御座います。

退職金準備に活用される法人保険

逓増定期保険

法人保険加入後5~6年前後の短期間で解約返戻金がピークとなる法人保険

長期平準定期保険

法人保険加入後10~20年前後の中長期間で解約返戻率がピークとなる法人保険

上記のように解約返戻金のピーク(貯まり方)の違いを把握した上で、理事長・理事の退職タイミングに合わせて形で法人保険に加入しなければ有効的な法人保険の活用ではなくなってしまうことを注意下さい。

まとめ

冒頭でも述べた通り、令和元年6月度の改正(損金算入での新ルール)に影響を受けない法人保険や、新ルールに乗っ取った範囲内で全額損金算入を行える法人保険、経理処理の方法が複雑となりましたが、法人保険の種類によっては損金計上を行い、節税を行うことはまだ十分可能です。

また、医療法人とMS法人や資産管理法人を上手に活用した法人保険活用も御座います。

ただし、損金算入(節税)のみを目的に法人保険に加入することはお勧めいたしません。

医療法人の経営計画や事業継承、ご自身やご家族のライフプランやマネープラン、将来の相続対策を事前に見据えた上での法人保険加入が必要となります。

株式会社フィナンシャルマネジメントではこれまで300人以上の医師・歯科医師(勤務医・開業医)のライフプランコンサルを行ってきた実績がございます。また無料相談も実施しておりますのでお気軽にご相談ください。

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