大増税時代が到来!医師・歯科医師にとってどのような影響が予想されているのか?

先日1223日に『令和5年度税制改正の大綱』が閣議決定されました。税制大綱は来年 1 月召集の通常国会で審議され、法案が成立すると翌年度から新しい税制が施行されます。

令和5年度の税制大綱には、防衛力強化のための大幅増税の方針が盛り込まれ、法人税と所得税、たばこ税の3つの税金を増税することで2027年度に「1兆円強を確保する」と明記されていました。実は増税予定の3つの税金以上に、医師・歯科医師の皆様にとって影響が大きいと考えられる変更点も盛り込まれていましたので、どのように税金のルールが変更されるのか、医師・歯科医師の皆様にとってどのような影響が出そうなのか具体的に解説します。 

防衛費増額のための大幅増税のポイントとは?

防衛費の増額を目的として法人税・所得税・たばこ税の増税方針が盛り込まれていました。

いずれも、増税のタイミングは「24年以降の適切な時期」とされているため、開始時期は未定です。

これら3つの税金がどのように増税され、医師・歯科医師の皆様にどのような影響が考えられるのか見ていきましょう。 

法人税はどのように増税されるのか?

法人税は本来の税率は変わらず、税額から500万円を引いた金額の44.5%の付加税が上乗せされる見込みです。

つまり、法人税額が500万円以下(課税所得約2400万円以下)の法人は増税の対象にはならないため、法人に残している利益がそこまで多くないという方には特に影響はなさそうです。

ただし、現状所得税よりも法人税の方が、税率が低いため、節税目的で、個人の所得を低めに抑えて、法人に多く残すようにされている方もいるでしょう。また、近年法人保険の節税効果が薄くなってしまったため、法人で支払っている保険料が減り、結果的に利益が多く残っているという法人もあるのではないでしょうか?

直近の決算書を確認し、法人税額が500万円以上になっていた場合は、役員報酬の見直しや、各種法人保険の検討など、法人税の課税所得を減らすための対策の必要性が高まるでしょう。 

所得税はどのように増税されるのか?

所得税は税率1%の新たな付加税が新設される見込みです。現状2.1%の東日本大震災の復興特別所得税がかかっているものを1%引き下げ、合計の税率は現在と同じ2.1%に保たれる予定のため、この増税によって急激に所得税の負担が大きくなることはありません。

しかし、東日本大震災の復興特別所得税は本来2037年までの25年間という期限がありましたが、復興財源の総額を確実に確保できるまでの期間に延長される見込みで、その後も新設された1%の付加税の負担が残るため、2037年以降その影響が出てくるだろうと考えられます。

また、富裕層を対象とした増税も検討されていましたが、こちらは年30億円を超えるような富裕層を対象としたものだったため、現状影響のある方はほとんどいないと考えられます。しかし、年間所得が1億円を超える富裕層ほど所得税の負担率が下がる、いわゆる「1億円の壁」が問題視されているため、今後対象者が拡大すれば、影響を受ける人も増えるためどのような変更がされるのか注視しておく必要性がありそうです。 

たばこ税はどのように増税されるのか?

たばこ税は1本あたり3円の増税を想定し、葉たばこ農家への影響に配慮しつつ、段階的に引き上げられる見込みです。こちらは、従来からの増税の動きと大きな変更点はありません。 

医師・歯科医師に影響が大きい令和5年度税制大綱の変更点とは?

先述の法人税・所得税・たばこ税以上に医師・歯科医師の皆様に影響が大きいと考えられる『相続税・贈与税』と『NISA制度』に関する変更点を紹介しましょう。 

2024年度から変わる『相続税・贈与税』の変更点

まず、令和5年度の税制大綱に盛り込まれていた相続税の変更点を見ていきましょう。

・相続時精算課税制度に『年110万円の基礎控除が』新設

・『生前贈与加算』が相続発生前3年から7年に延長

という2つの変更点で、相続税と贈与税が一体化される見込みです。 

相続時精算課税制度に『年110万円の基礎控除』が新設される

2024年から、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除の枠が新設され、年間110万円までなら相続税も贈与税もかからないようになります。

年間110万円までの贈与なら贈与税の申告も不要になるため、今まで資産を多く保有する人にとって使いづらさのあった相続時精算課税制度の使い勝手が良くなるでしょう。 

『生前贈与加算』が相続発生前3年から7年に延長される

2024年以降に相続が発生すると、その7年前からさかのぼって暦年贈与によって生前贈与して金額から100万円を引いた金額が相続財産に加算されることになります。

ただし、前述の通り、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除の枠が新設され、年間110万円までの贈与であれば贈与税の申告も不要になる見込みのため、毎年110万円以下の贈与を行う分には大きな問題は発生しないと考えられます。

現状の暦年贈与においては、継続的かつ定期的な贈与を行っていると、初めからその総額を贈与する想定だったと判断され、否認されるケースがあるため、あえて時には年間110万円以上の贈与を行って少額の贈与税を支払っているというケースもあるでしょう。

そのような対策が逆効果を生む可能性が考えられますので、本当にその対策が必要なのか、効果があるのか再検討する必要が出てくるでしょう。 

また、110万円超の生前贈与を行うのであれば2023年が最後のチャンスとなりそうです。

この機会に、毎年110万円以内の生前贈与を行っていれば相続税対策が十分なのかどうかを確認するためにも、どの程度の相続税が発生する見込みなのか一度シミュレーションしてみましょう。

『教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置』の適用期限が3年延長される

教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の適用期限が3年延長されることになりましたが、節税的な利用につながらないよう所要の見直しが検討されています。

ただし、そもそも子や孫の教育資金を都度親や祖父母が負担する行為は贈与当たらず、贈与税も発生しません。今後確定する要件を見て、利用できるようであれば、一括贈与のデメリットを理解した上で活用を検討するとよいでしょう。 

『結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置』の適用期限が2年延長される

結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置も2年延長されることになりましたが、こちらも教育資金同様に節税目的での利用につながらないように、要件の見直しが検討されています。

結婚・子育て資金も、教育資金同様、直接支払う分には贈与税は発生しません。また、年間110万円以下の贈与は贈与税の申告も不要になる見込みのため、平均的な結婚式等の費用程度であればその範囲内で対応できると考えられます。

こちらも要件やデメリット等を確認の上、利用を検討しましょう。 

2024年から変わる『NISA制度』の変更点

2024年からNISA制度がより使い勝手の良いものにかわる見込みです。

非課税枠を利用して投資できる金額が増え、非課税期間等の期限などのなくなるため、より期間の投資によって、複利の効果のメリットを享受しやすい環境が整いそうです。 

一般NISAとつみたてNISAの制度が一本化され、投資枠が拡大する

今まで、一般NISAとつみたてNISAの併用は認められておらず、年度ごとにどちらかを選択するしくみでしたが、一般NISAとつみたてNISAの制度が一本化されることによって、安定した投資信託の積み立て運用と、すこしリスクを取った上場株式等の運用の両方を非課税枠の範囲内で行うことが可能になりました。

一般NISAの役割を引き継ぐ『成長投資枠』の年間投資上限額は240 万円に、つみたてNISAの役割を引き継ぐ『つみたて投資枠』は、120 万円と、今の倍以上の投資が可能になります。 

一生涯にわたる非課税限度額が新設される

一生涯にわたる非課税限度額は1,800 万円(うち成長投資枠1,200 万円)となる見込みです。 

NISA制度が恒久化される

現状のNISA制度には投資可能期間や非課税期間に制限がありましたが、それらが撤廃され、恒久的に利用できるようになります。 

税制の変更点を理解し、早めの対策を打とう

今回お伝えしたように、令和5年度の税制大綱には様々な変更点が盛り込まれていました。

税制大綱は100ページ以上ある資料のため、忙しい皆様がすべてに目を通すことは難しいと思われますが、要点だけでも理解し、早めの対策を打つことで皆様の納税額は大きく変わってくるでしょう。

 

なお、税制大綱は税制改正の素案のため、例年ほぼ税制大綱の通りに税制が変わることが多いですが、確定事項ではありません。来年の国会の審議により変更が生じる可能性があることをご理解ください。

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