結論から申しますと民間の医療保険は基本的には最低限の保険でよい、特に手厚く加入しすぎる必要はないと考えます。
勤務医の先生方はご加入の国保・健保・組合状況により大きく内容が異なるためまずは加入内容の把握が必須。
開業医の先生方には休業補償の検討が必要だと考えます。
今回の記事では、生命保険会社が医療保険を勧めてくる際に絶対に教えてくれない①公的保障制度の観点、医療の専門家でも勘違いしがちな②医療保険の保障内容の観点から見ていきましょう。
民間の生命保険会社が医療保険を勧めてくる際に絶対に教えてくれない公的保障制度「高額療養費制度」とは!?
日本では高額療養費制度(厚生労働省)という素晴らしい公的保障制度があり、ひと月あたりの医療費の自己負担額上限が決まっており、それ以上の医療費負担が必要ないこと医療従事者の先生方ならご存じの先生方の多いことと思います。
前年の収入が1,200万円以上の場合でも、月額での医療費自己負担額上限は25万円と負担上限が決まっており、医療制度がそもそも税金を財源にしていること、また互助制度という側面もあり、適切な「医療を受け取れない」という事態を避ける為の制度を国が準備してくれています。
また民間の生命保険会社の医療保険(主契約)は入院した場合に1日あたり入院給付金を○○円または入院した場合に初回○○万円というもので、外来費用や医薬品費用などはカバーしていません。
もし生命保険の担当者が医療保険を勧めてくる際に、この高額療養費制度を説明してくれたのちに医療保険を勧めてくるのであれば、その担当者は非常に信頼できる担当者だと言えるのかもしれません。
ただし、高額療養制度も完璧ではありません。当然穴は御座います。
高額療養費制度でカバーしきれない(穴)部分とは!?
- 月をまたぐと自己負担上限額リセットされる
- 差額ベット代・食事代は対象外
- 21,000円未満は対象外
- 先進医療・自由診療は対象外
当然ながらお見舞いへのお返しや、当然ながらお見舞いへのお返しや、絶対に必要ないとは言えませんが、まずは高額療養制度を知った上で必要か不必要かを見極めることが大切ではないでしょうか。
労働基準法上での観点から見た休業補償の必要性
勤務医は対象、開業医(経営者)は対象外。
実は給与所得者(雇われる側=勤務医)と経営者(雇う側=開業医)では労働基準法上の休業補償制度は大きく変わってきます。
「開業医の先生方は休業補償の検討は必要だと考えます。」と上記で記載したのは、雇う側の経営者は労働基準法上の保障適用外のため内容を把握の上で必要か不必要かの判断をしなければいけないということです。(※ 下記記載)
労働者が業務中または通勤時が原因となった負傷または疾病により、休業せざる得ない状況になってしまった場合、休業中の所得を補償するための給付制度休業補償給付(60%)と休業特別支援金(20%)を受け取ることができます。(支給することになっています。)
健康保険(組合)の観点から見た休業補償の必要性
- 勤務医、開業医ともに加入状況により異なる。
業務中以外の原因でなった負傷または疾病により、休業せざる得ない状況になってしまった場合、健康保険、組合の傷害手当金(傷病手当金)を受け取ることができます。
- 一般企業に勤めるサラリーマンなどは就業不能時の公的な休業補償が月額2/3程度。
注意点としては…
・各組合(協会)によって傷害手当金(傷病手当金)の内容が異なる。
・各組合(協会)によって支給条件(条件、期間など)が異なる。
・国民健康保険にご加入の開業医には支給されない。
など各組合(ホームページや問い合わせなど)に事前に確認しておきましょう。
以上が公的な傷病による就業補償時の観点となります。
一般企業に勤めるサラリーマンや、市役所勤務・教師などの公務員などは傷病で就業不能となった際は月額2/3程度の所得補償がされており、比較的医師・歯科医師の先生方と比べると補償が手厚いと言えます。
医師・歯科医師の傷病(休業)補償は、所得(収入)に対して補償割合が低い職業となることを考慮した上で民間の医療保険が本当に必要かどうかご検討ください。
医療保険加入で医療費負担に対する備えは万全!?民間保険会社での医療保険の保障内容を確認しよう
医療保険の保障内容はどのようになっているのでしょうか。
医療とは…医術を用いて病気を治すこと。とあります。(日本国語大事典より引用)
生命保険は「主契約」保険契約の基本となる部分と、「特約」主契約以外のオプション契約部分で構成されています。
医療保険の「主契約」部分の保障内容
医療保険の主契約は怪我や病気で入院した場合や所定の手術を受けた際に給付金が受け取れます。
死亡時に死亡保険金を受け取ることも可能ですが、受取金額としては少額の場合が一般的となります。
医療保険の「特約」部分の保障内容
通院給付や先進医療を受けた際の給付金などが特約として主契約に付加することが構成となっています。
医療保険で保障される範囲は限定されており医療費全般を補っている訳ではありません。
上記でも記載しておりますが外来費用、医薬品費用をカバーしてはくれません。
あくまで入院と手術の費用、通院にかかる交通費や差額ベッド代などの実費、先進医療費への備えが医療保険の保障対象とお考えください。
約款からひも解く保障内容
実は同じ病気が原因でも保険給付金が受け取れるケースと、受け取れないケースもあることを皆さんはご存じですか!?
その内容を理解するためには目が痛くなる様な小さい文字で記載された何十(何百)ページにも及ぶ生命保険約款を読み解く必要がございます。
脳梗塞での事例(私が大卒時に加入していた医療保険の事例)
・脳梗塞で入院 ⇒ 保険金給付○
・脳梗塞で嚥下機能が落ちて肺炎で入院 ⇒ 保険金給付✕
・脳梗塞で麻痺が出てこけてしまい骨折 ⇒ 保険金給付✕
このように同一の病気が原因でも給付金が出る場合(①)と出ない場合(②・③)があり、医療保険加入時(加入前)に約款を全てひも解き把握しておくことは非常に困難なことではないでしょうか。
これらの事から、医療保険は万能ではないという事をご理解しておいていただければと思います。
経営者(ご開業医)は自己責任、自己防衛目的で休業補償の検討が必須!!
結論を申しますとご開業医の先生方は、まずは保険医協会や医師会・歯科医師会の団体休業補償制度を検討することをお勧めします。
民間の医療保険で休業時の補償をご準備することを検討いただくことはそのあとでも遅くはありません。
個人開業医、医療法人開業医(常勤医師が一人の場合)問わずに休業中の支出を公的保障(高額療養費制度・労働基準法・健康保険・組合)だけでカバーすることはできません。
理由としては休業時の際(収入がない場合)でも医院維持のためのランニングコストは変わらずかかるため休職時の補償が必須となります。
とは言え多くの場合休業補償の制度、保険などは掛け捨て、若しくは返礼率が低い場合がほとんどです。闇雲に加入しては余分の支出を生むだけです。
では適正な必要保障額はいくらなのでしょうか。
基本的な考えをみていきましょう。
医院経営における支出は主に「固定費」と「変動費」に分けることができます。
開業医が休業補償を考える際に必要なポイントは「変動費」は考慮せず「固定費」から必要保障額を算出することが重要ポイントとなります。
「固定費」とは売上の増減に関係なく発生する費用のことです。
医療機関を運営していくためには、売上の有無に関わらず、一定の人件費や借入返済費用、リース費用や租税公課(税金)などの支出は発生します。
このように医療機関を維持・運営していくために必要な費用が固定費になります。
開業医の休業補償算出に必要な休業時固定費の具体的な目安を考察!!
これらを基準としてご自身の事業から必要保障額を算出のうえ、団体互助制度である保険医協会や医師会・歯科医師会の団体休業補償制度の活用を行ってください。
まとめ
万が一のため、転ばぬ先の杖として保障が手厚いことに越したことはありません。
ただその一方で資産家や富裕層と呼ばれる人たちの民間医療保険加入率は非常に低いというデータがございます。
仮に入院給付金1日当たり1万円、月額換算で30万円や手術給付金数十万円を受け取る備えをするよりも、しっかりとした資産形成や不労収入を構築し、ファイナンシャルフリーやベーシックインカム(個人単位)などの経済的自由を手に入れることで、もしもの際に備えていくことが無駄を抑える第一歩となります。
貯蓄、資産がない場合には民間の医療保険を利用(加入)することは選択肢の一つとなりますが、事前に公的保障制度を把握し、必要保障額を算出したうえで最低限の保険を検討することをお勧めします。
民間の医療保険では、高額療養費制度で補うことのできない先進医療費などを保障してくれることは大きなメリットではないでしょうか。
開業医の先生方は保険医協会や医師会・歯科医師会の補償制度の加入を検討するにあたり、事業の固定費から必要保障額の算出を行い適正な保障に加入することで医院経営のコストカットにも繋がるでしょう。
株式会社フィナンシャルマネジメントではこれまで300人以上の医師・歯科医師(勤務医・開業医)のライフプランコンサルを行ってきた実績がございます。また無料相談も実施しておりますのでお気軽にご相談ください。