前回の「iDeCoで節税ができるって本当?医師・歯科医師がiDeCoを行うべきメリットとは?」ではiDeCoの基本的な「メリットとデメリット」「加入条件と拠出額上限」「簡単な運用選択肢」などを記述しましたが、今回は60歳以降の受け取り方、出口戦略をお話できればと思います。
まずは前回のおさらいで、iDeCoの仕組み、メリット・デメリットとは?
iDeCoとはindividual Defined Contribution Planの愛称のことをイデコと呼んでいます。
日本語に訳すと個人型確定拠出年金といいます。
わかりやすく説明しますと・・・
個人型 ⇒ 国・企業が準備するのではなく自分で準備すること。
確定拠出 ⇒ 確定した拠出(出す金額が確定している)がある。
※ 受け取る金額は運用によって変化する(確定していない。)
※ 給付金が確定しているものは「確定給付型」という。
年金 ⇒ 定期的な金銭の給付のことです。
NISAと同様にiDeCoとは商品名(運用商品)ではなく制度(箱)の事であり、箱(口座)に様々な投資商品を入れて運用すると思っていただければよいと思います。
メリットは大きく分けて2つ、1つ目は「投資利益への税金が非課税」となる税制優遇、2つ目は「掛け金が全額所得控除として節税」できることにメリットがございます。
ただし、デメリットもあり「60歳まで取り崩し(引き出し)ができない。」「手数料がかかるので注意が必要。」「受け取り時に税金がかかる。」などがございます。
加入条件は20歳以上から60歳までとなり、加入金額は職業形態によって異なります。
また個人開業医やフリーランスの先生方で国民年金基金にご加入の場合は、iDeCoと国民年金基金の合計加入金額が上限で年間816,000円となります。
iDeCoの受け取り方法を解説!!賢い出口戦略とは!?
iDeCoの掛け金拠出年齢は20から60歳となります。
受け取り開始は原則60歳以降、ただし60歳で必ず受け取らなければ(受け取りを開始しなければ)いけないという訳ではなく70歳まで伸ばすことができます。
また50歳以降でiDeCoをスタートする方は受け取り開始時期が後倒しとなることに注意しましょう。
正確に言いますとiDeCoは通算加入期間によって受け取り可能な年齢が決まってきます。
通算加入期間が10年以上加入は60歳から70歳の間で好きな時期から受給開始が可能となりますが10年未満の場合には通算加入期間によって順次後倒しとなりますので確認が必要となります。
それでは本題の受け取り方についてお話したいと思います。
iDeCoの受け取り方法は2つ、一時金で一括受け取りor年金として分割受け取り。
どちらを選択しても一定金額までは非課税枠の優遇があると思ってください。
ただし、受け取り方によって準備されている税制優遇(金額)は異なってきます。
結論を申しますと、一時金で一括受け取りを選択することをお勧めします。
受け取り時の税金に対しては優遇金額が非常に大きいからです。
前提として所得には色々な所得の種類がございます。
それではiDeCoの一時金一括受け取りの場合を見ていきましょう。
iDeCoでは一括受け取りが有利?注意点をわかりやすく徹底解説!!
一時金受け取りのケースでは所得の種類が退職所得となります。
長期に渡りiDeCoの掛け金を拠出しているとはいえ、所得の種類が退職所得となるのは違和感を感じますが・・・一旦その違和感は置いておいて・・・
退職所得は所得のなかでも非常に税制優遇されています。
iDeCoや退職金にかかる税金では受け取った金額(資金)にまるまる税金が課税される訳ではありません。
退職所得控除という経費=非課税枠を利用した後の金額に課税されるのです。
控除と聞くと日頃聞きなれない言葉だと思いますが、わかりやすくいうと課税の対象外になる金額を意味すると思ってください。
退職所得控除の計算
事例
① iDeCo運用期間18年の場合
40万円×18年=720万円の退職所得控除がある。
② iDeCo運用期間30年の場合
800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円の退職所得控除が御座います。
このように長期間になればなるほど拠出時の節税メリットと、受け取り時の税制優遇メリットが大きくなっていくのでiDeCoは非常にお得といえます。
更に退職所得は受け取った金額から退職所得控除を引いた後、更に1/2を掛けた金額に課税される、その課税方法はその年度の他の所得と分けて課税を行う分離課税というメリットもあるため税金面ではかなりの優遇があると言えるのではないでしょうか。
シミュレーション条件
iDeCo一時金受け取り額:2,000万円 積立期間:30年
2,000万円(一時金受け取り額) - 1,500万円(退職所得控除) = 500万円(退職所得控除後の金額)
500万円 × 1/2 = 250万円(課税対象額)
分離課税のため
iDeCo一時金受け取りにかかる所得税は、
250万円 × 10% - 97,500円(控除) = 152,500円
iDeCo一時金受け取りにかかる住民税は、
250万円 × 10%(一律) = 250,000円
税金額合計 402,500円となります。
受け取った金額2,000万円に対して、納税額合計が約40万円となり全体の約2%しか納税されないということを見ていただくと非常に納税額が低いことがおわかりいただけるかと思います。
iDeCoの受け取り方のポイントとして、基本的には後で説明する年金受け取りよりも一時金で受け取る方が税金の優遇が大きいとお考えください。
iDeCo一時金受け取りでの注意点!!
iDeCoはその他の退職金(勤務医の退職金、医療法人役員の退職金、小規模事業共済など)をまとめて(同年に)受け取る場合、年数が長い方のみに適用が限定されてしまいます。
この年数が長い方にのみという点には非常に気を付ける必要がございます。
iDeCoは60歳から70歳までの範囲内で受け取るタイミングを自身で決めることができますので退職金(iDeCo一時金やその他の退職金)を受け取る時期をずらせば退職金控除を再度新たに適用できるのでしょうか。
iDeCoでは退職金5年ルールの適用がない!?iDeCoファースト受け取りがお得!?
退職金5年ルールとは「前年4年以内に他の退職金を受ける場合には、退職金控除の計算に一定の調整が入ります。(他の退職所得と合算される)」つまり5年以上の期間をあけて退職金を受け取ることにより、退職金控除に調整が入らずそれぞれに退職金控除を使うことが可能ということになります。
ただし、iDeCoではこの退職金の5年ルールが適用されません。
iDeCo受け取りのルールでは「前年14年以内に他の退職金を受け取る場合には、退職金控除の重複分が減額されてします。」そのため受け取り方(時期)に注意して出口戦略を立ててない場合には、税制上優遇が使えず現役時代に行った節税が、受け取り時に課税されることになり節税ではなく税金の繰り延べとなってしまう可能性もございます。
ではiDeCoとその他の退職金を2種類以上受け取る場合にはどのような出口戦略を立てておくべきなのでしょうか。
結論を申しますと、
iDeCo先に一時金として受け取り(iDeCoファースト)、その他の退職金受け取り時期を5年以上あけて設定することで重複を避けることが可能となります。
上記の場合に60歳で本業(医業)の退職金やその他の退職金を受け取り、65歳でiDeCoの一時金を受け取ってしまうと退職金控除の税制優遇が使えず税金の繰り延べになってしまうのでしっかりとご注意ください。
ご自身で開業をされている個人開業医や医療法人理事長の先生方はご自身で退職時期を設定できるため重複期間5年間をあけることが比較的容易となります。
ご勤務医の先生方はご自身で退職時期をコントロールできない点を考慮してiDeCo加入をご検討する必要がございます。
勤務医(医師・歯科医師)の年収は一般の会社員と比較して高水準ですが、退職金に関しましては決して手厚いと言えません。
大学病院にずっと勤務するケース、医局を通して様々な病院を転々とするケース、医局に属さず直接病院に雇用されたケース、様々なケースや雇用される病院ごとに異なりますが、常勤医師として10年勤務したとしても300万円から500万円といった水準となることが多いようです。
いずれにしても正確な退職金を把握するためには、ご勤務先に一度ご確認いただくことをお勧めいたします。
iDeCo分割受け取りの税金は?注意点をわかりやすく徹底解説!!
次にiDeCoを分割して年金として受け取る場合を見ていきましょう。
年金受け取りの場合では先程の退職所得ではなく、所得の種類が雑所得として取り扱われます。
雑所得の場合の控除(税制優遇=経費)は公的年金等控除となります。
結論を申しますと、一時金受け取りに比べると税制優遇では分割受け取りは見劣りしてしまいます。
また、iDeCoの受け取り選択が可能な60歳以降もお仕事を続けられる先生方では、本業 (医業)の所得金額によって公的年金控除が減額されることもデメリットの1つとなります。
シミュレーション条件
年収(60歳から70歳):1,200万円/年
iDeCo分割年金受け取り額:200万円/年(10年間) 受け取り年齢:60歳
税額の計算(国税庁HP No1500)
雑所得の金額は、給与所得などの他の所得の金額と合計して総所得金額を求めた後、納める税額を計算とあります。
公的年金等に係る雑所得の金額は下記の表より算出いたします。
仮に60歳時点で本業からの収入が1,200万円、概算で課税される所得金額が900万円の場合では・・・
200万円(分割受け取り額) × 75%(割合) - 17.5万円(控除額) =
132.5万円(雑所得=公的年金等控除後の金額)
給与所得が900万円、雑所得132.5万円、課税される所得金額が1032.5万円の場合、所得税33%、住民税一律10%、合計43%が課税されますので・・・
iDeCo分割受け取りに係る税金は132.5万円(雑所得=公的年金等控除後の金額) × 43% = 約57万円(納税額)
iDeCo分割受け取り金が年間200万円の場合は約57万円の納税が必要となり実質手取り額は133万円となってしまいます。
65歳以降で同じ条件の場合では・・・
200万円(分割受け取り) × 100%(割合) - 110万円(控除額) =
90万円(雑所得=公的年金等控除後の金額)
給与所得が900万円、雑所得90万円、課税される所得金額が990万円の場合、所得税33%、住民税一律10%、合計43%が課税されますので・・・
iDeCo分割受け取りに係る税金は90万円(雑所得=公的年金等控除後の金額) × 43% = 約39万円(納税額)
iDeCo分割受け取り金が年間200万円の場合は約39万円の納税が必要となり実質手取り額は161万円となってしまいます。
お仕事を継続しながら、iDeCo分割受け取りを年間200万円ずつ10年間で行けとる場合(200万円/年×10年間=2,000万円)では、60歳から64歳までの5年間合計納税額は285万円(57万円×5年間)、65歳から69歳の5年間合計納税額は195万円(39万円×5年間)となり総合計納税額は480万円となります。
一括受け取り時の納税率は約2%と非常に低い納税率に対して、分割受け取りのケースでは受け取り金額2,000に対して、概算納税合計額が約480万円と全体の約24%と医師・歯科医師の現役時納税額に比べると比較的低くなってはいますが少し物足りなく感じてしまいます。
まとめ
現役時代に掛け金が全額控除となるiDeCoでの節税は、高額納税者の医師・歯科医師に対してメリット(恩恵)が大きく長期に渡れば渡るほどその総額も非常に高額になってきます。
ただし、60歳まで取り崩しができない(資金ロック)のデメリットや60歳以降の受け取り方にも出口戦略のプランニングも必要となり、場合によっては節税ではなく税金の繰り延べになってしますケースも御座います。
この記事をお読みいただいた方の中には、現役時代のライフプランやリタイアメント(老後)プランニング、出口戦略をどのように立てていけば良いのかわからないと言う先生方も多いのではないでしょうか。
株式会社フィナンシャルマネジメントではこれまで300人以上の医師・歯科医師(勤務医・開業医)のライフプランコンサルを行ってきた実績がございます。また無料相談も実施しておりますのでお気軽にご相談ください。