ご開業医の先生方からいただく医療法人(医療法人成り)に関するご意見で圧倒的に多いご意見が・・・
「税理士(会計士)に法人化を勧められているが本当に必要なのか自分ではよく解っていない。」
「医療法人化するメリットとデメリットの比較ができない。本当にメリットが大きいのか解らない。」
「法人化すれば節税できると言う情報は知っているが、具体的には解っていない。」
などの「解らない」と言うご意見です。
前回の記事では、医療法人化でクリアすべき4つの数字基準(数字の目安)を記述いたしましたが、本記事では医療法人化の「解らない」にお答えする為にメリット・デメリットをご紹介いたします。
1、数値基準をクリアする(医療法人化の数値的目安をクリアする)
2、医療法人化の目的をリストアップ、メリット・デメリットと照らし合わせる
3、ビジョン(仕事・プライベート・相続など)から考察をする
4、個人医院(法人設立前)と医療法人(設立後)の具体的数値から検討する
もしも、医療法人化を検討している、顧問税理士(会計士)さんに相談してもすっきりしないなどのお悩みがある先生は本記事を是非ご参考にしてください。
医療法人化をメリット・デメリットから検討する
医療法人化には様々なメリット・デメリットが御座います。
このメリット・デメリットには、医療法人成りした院長(理事長)であれば誰にも当てはまる項目と、個人によっては当てはまらない項目があることはご存じでしょうか。
ご自身の場合は該当するのか、それとも該当しないのかご理解いただきメリットは最大化、デメリットは最小化いただけるように1つ1つ順番にご紹介していきましょう。
1-2 2重で控除が利用可能になる(個人:給与所得者控除、法人:経費)
1-3 所得分散による減税の可能性がある
1-4 低税率での退職金準備が可能
1-5 生命保険料が経費計上可能
1-6 スタッフの福利厚生が充実可能(スタッフ定着・スタッフ採用などのメリット)
1-7 事業展開が行いやすく 相続・事業継承対策が可能なる
1-8 相続・事業継承対策が可能
1-9 その他(旅費日当の支給が可能、成人への所得分散、欠損金控除期間が9年間となる など)
2-2 事務処置が煩雑になる
2-3 月収が固定化させる(デメリット兼メリット)
2-4 資金使用の自由度が低くなる
2-5 後継者不在の場合、退職時および解散時(死亡など)において拠出金(資本金)を超える余剰金(医療法人の残余財産)が国、地方公共団体等の国庫の帰属となる
2-6 その他(付帯業務の禁止、負債の引継ぎが不可の場合がある など)
医療法人化のメリット
1-1 税金の種類が所得税から法人税に変わる
個人事業と法人事業では税率が大きく異なります。
個人では所得税が累進課税となり、所得が増えれば増えるほど税率が高くなり、最大55%(住民税含む)もの税金を負担しなければなりません。
医療法人での法人税率は最大でも約30%となり、所得税率よりも大幅に低く設定されているため資産と残しやすくなるというメリットがあります。
1-2 2重で控除が利用可能になる(個人:給与所得者控除、法人:経費)
医療法人化すると院長は理事長をなり医療法人から役員報酬を受け取ることになります。
所得税の区分が「事業所得」が「給与所得」となり、勤務医時代と同じように給与所得者控除の適用が認められます。
この給与所得控除が認められることにより個人では節税が可能となります。
当然、診療などに必要な経費は医療法人で経費計上が可能ですので、個人では給与所得者控除、法人では経費と言う2重で控除が利用可能となるのです。
1-3 所得分散による減税の可能性がある
青色申告決算書NO.㊳に専従者給与項目が御座います。
専従者とは、確定申告を青色申告で行う個人事業主と生計を一にしている配偶者や15歳以上の親族などの家族従業員のことをいいます。
実際の業務内容と給与額の数字が伴わない場合も多く見受けられますが、一般的な専従者給与設定は以下の専従者給与設定が多いようです。
配偶者が医師・歯科医師の場合・・・1,000万円前後(1,000万円以上)
看護師・衛生士の場合・・・360~600万円前後
その他の場合・・・360万円前後(360万円以下)
法人成りを行うことで配偶者の役職は医療法人の理事となり、会社(法人)の経営者となります。税理士(会計士)に相談しても個人医院の専従者給与を1,000万円にすることには反対されますが、医療法人の理事役員報酬であれば可能というケースがほとんどです。
医療法人化に伴う所得分散を上手に行うことは、納税額を抑え可処分所得(手取り)アップに直結致します。
医療法人化検討段階でしっかりと法人化シミュレーション・個人での所得分散シミュレーションを作成し検討を行ってください。
1-4 低税率での退職金準備が可能
個人医院では経営年数にかかわらず院長(専従者も含む)が退職金を受け取り経費とすることはできません。医療法人では勤続年数に応じて退職金を受け取ることができ医療法人が支払った退職金は全額経費として計上することが可能です。
※ 小規模企業共済などは各組合・機構から積立金の支払いが退職(以降)時期に支払われますので医院が損金を経費計上することはできません。
所得分散や法人保険を上手に使いながら医療法人で資産を蓄えていき、その資産を最終的に退職金という形で理事長(理事)が受け取ることができます。
iDeCoの記事でもお話しましたが、退職金にかかる税金は課税対象額が1/2以下となり非常に優遇されています。
参考:国税庁 退職金と税 退職金にかかる税金所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額の計算方法(令和3年)
シミュレーション条件① 退職金で6,000万円を受け取る場合
退職金:6,000万円 在籍年数:20年
退職金控除 800万円 ※ 在籍年数20年×40万円
課税対象額 2,600万円 ※ (6,000万円-800万円)×1/2
退職所得税 約760万円 ※ 2,600万円×40%-280万円
退職住民税 約260万円 ※ 2,600万円×10%
総額納税額 約1,020万円
手残り 4980万円
シミュレーション条件② 役員報酬として6,000万円を受け取る場合
役員報酬に上乗せする金額:300万円/年 退職までの期間:20年
所得税率:40%
上乗せに対する所得税 約120万円 ※ 300万円×40%
上乗せに対する住民税 約30万円 ※ 300万円×10%
総額納税額 約3,000万円 ※ (120万円+30万円)×20年
手残り 3,000万円
1-5 生命保険料が経費計上可能
医院経営においては、理事長の責任・役割・重要性が非常に高くなります。
そのため、万が一のリスクに備えて高額な生命保険に加入してリスクをカバーする機会も必然的に多くなります。
医療法人では、医院経営に携わる生命保険料が法人の経費として計上できます。
個人医院ではこの生命保険料が経費とならず、税金を支払った後の手取り(可処分所得)から保険料を負担しなければなりません。
同じ生命保険でも、課税後と課税前どちらで保険料を負担するかで長期的にはお手元に残る資金に大きな差が生まれてきます。
生命保険料が経費計上できることは医療法人化の大きなメリットの1つと言えるでしょう。
医療法人での生命保険加入メリット詳細にご興味ある方は今さら聞けない法人保険!医療法人で活用するメリットと節税効果をご覧ください。
1-6 スタッフの福利厚生が充実可能(スタッフ定着・スタッフ採用などのメリット)
役員・従業員ともに健康保険・厚生年金に強制加入となりますが、現在において就職活動や転職活動の際、福利厚生も就職先選びの指標の1つであるのが事実です。
例えば同じ地域の、同規模、同給与の医院を比較する場合、より福利厚生の充実した企業の方が魅力的ですよね。
福利厚生を充実させ、スタッフを経済的に支援する。そして優秀な人材を確保し組織力を強化し更なる医院の発展に繋げる。
そういった側面のメリットも医療法人化にはございます。
1-7 事業展開が行いやすくなる
医療法人設立により、分院の展開や介護事業運営ができるようになります。
院長(理事長)先生のやりたい医療追及、開業時点では思い描けなかった事業展開なども、医療法人を上手に活用することで達成できる場合がございます。
また、分院展開を行うことで経営面にやりがいを感じる理事長もいらっしゃいます。
1-8 相続・事業継承対策が可能
個人医院の場合、医院を継承する場合には多額の相続税がかかるケースもございますが、医療法人の場合は理事長の変更を行うだけで医院継承が可能となります。※ 出資持分なしの医療法人の場合。
1-9 その他(旅費日当の支給が可能、成人への所得分散、欠損金控除期間が9年間となる など)
医療法人化のデメリット
2-1 ランニングコストの増加(社会保険料・税理顧問料など)
役員・従業員の健康保険・厚生年金が強制加入となり、保険料の半分が医療法人負担(労使折半)となる為、ランニングコストが必然的に増えてしまいます。
また、税理士(会計士)顧問料のランニングコストも増加すると思っておいた方が良いでしょう。
2-2 事務処置が煩雑になる
医療法人化では運営管理が複雑となり事務処理が多く煩雑になりがちです。
この点では、面倒なことが苦手、細かい作業が苦手の先生にとっては大きなデメリットとなってしまいます。
解決策としては、事務長を雇用する、または専門の事務代行サービスに委託することで対処なさる先生方も多く見受けられます。
2-3 月収が固定化させる(デメリット兼メリット)
前回記事『医療法人化をご検討の方へ!その医療法人化は本当に有意義ですか?①』にも記載しておりますが、
医療法人での役員報酬は期毎に決め固定給が理事長(理事)に支給されます。
一度、決定した役員報酬は自由に変更することが出来ず1年間変更できません。
プライベートの貯金が枯渇する事態や、毎月の収支が逆ザヤになってしまう生活、近い将来に計画していた新居購入やお子様の進学などに影響を出さない為にも、事前にプライベートの資金計画を見通すライフプラン作成をお勧めいたします。
2-4 資金使用の自由度が低くなる
医療法第54条(余剰金配当の禁止) 一般の株式会社(企業)と違い医療法人では余剰金の配当が禁止されています。
基本的に役員報酬を除いては、医療法人の資産・資金を処分することは難しく資金使用の自由度は低くなる傾向にございます。
2-5 後継者不在の場合、退職時および解散時(死亡など)において拠出金(資本金)を超える余剰金(医療法人の残余財産)が国、地方公共団体等の国庫の帰属となる
基本的に医療法人の理事長になる為には医師もしくは歯科医師免許が必要です。
親族に後継者がいない場合は、退職時期に可能な限り医療法人の内部留保をご家族様(理事長・理事など)に移す計画を持っておく必要がございます。
もしくは余裕を持ったM&A(合併と買収)の計画をご準備してください。
この問題は利益が多く出している医療法人ほど大きな問題となりますが、生命保険を活用することで解決ができます。
残念ながら、詳細につきましては金融庁の指導により文面にご説明することはできません。
ご興味がある場合はオンライン面談などで直接ご説明いたしますのでお気軽にお問合せください。
2-6 その他(付帯業務の禁止、負債の引継ぎが不可の場合がある など)
その他、付帯業務(医療法人での飲食業・不動産業)の禁止
負債の引継ぎが不可(個人医院開業時の運転資金や消耗品などの借入)などもデメリットを言えるのではないでしょうか。
まとめ
有意義な医療法人化は、まず数値基準をクリアする。
次にメリット・デメリットの大きさを比較する。但し、メリット・デメリットは医療法人成りした院長(理事長)が誰でも当てはまる項目と、当てはまらない項目があることに注意すること。
個人医院パターンのライフプランと医療法人化パターンのライフプランを比較することで医療法人設立のメリット・デメリットが数値で一目瞭然となり、中長期的な医療法人と個人の資金計画把握が可能となります。
医療法人設立は、一般の法人設立とは違い行政への認可が必要なため、検討開始から実際の設立まで1年以上を要する場合もございます。
しかし、医療法人のメリットは多岐に亘り、時間を掛ける価値は十分あると言えます。
株式会社フィナンシャルマネジメントではこれまで300人以上の医師・歯科医師(勤務医・開業医)のライフプランコンサルを行ってきた実績がございます。また無料相談も実施しておりますのでお気軽にご相談ください。